旅する空間

最終編集日 : 下道基行

ツアー旅行や仕事での旅行など目的地と目的地を最短で繋いで動く場合は、移動を時間やお金を中心に移動手段も考えるかもしれない。ただ、TRLabの場合、1人ではなく、何人かで移動し、新しい風景や人々との出会いから発見を呼び込み、共有し話し合いながら旅をすることを考えていたので、「移動する空間」がひとつ重要なポイントとなり、その結果、ワンボックスカーを旅のメインとして使っていた。
(このような特殊な旅をする人がいるかは不明だが…)ワンボックスカーの利点は、メンバーどうしで自由に話したり作業をしながら動けるという「空間性」を持ちながら、さらに旅中の予定の変更や急な発見などに対処できる「機動性」や「身軽さ」も兼ねた移動手段だったから。旅中の車内は録音や編集作業や話し合いのラボ空間としても大活躍した。逆に、新幹線や電車など公共交通機関を選ぶと、駅と駅の間に何かを発見しても降りることはできないし、駅からその発見した物までたどり着くのも難しく急なルートの変更はほぼ不可能だし、移動中にメンバーと何かを制作したらり、音源をみんなで聞いたり、気兼ねなく会話をするのにはあまり向いていない。TRLabの旅の仕方が特殊なのだし、逆に、公共の乗り物だからこそ起こる他者との出会いや発見もあるとも言える……。さらに、車の場合、逃げられる場所もなく関係性が密な分、仲良くなるが、キャスティングが上手くいかずメンバー内で気が合わない場合は地獄かもしれない……。

ちなみに、僕ひとりで旅をしてリサーチや撮影の場合は、旅先等でレンタバイクを借りる事が多い。これは、レンタサイクルよりも広範囲に移動できて、レンタカーより素早く路肩に停車できて人に話しを聞いたり撮影を行う事が簡単にできる。さらに、自動車でうろつくよりも周囲に警戒されない…という利点もある。
2016年のTRLabの小笠原諸島の旅でも、船から降りた小さな島内でのリサーチは、それぞれ原付バイクをレンタルした。それぞれバラバラの移動空間を持った結果、誰よりも朝早く目覚めるmamoru氏が、毎朝早朝からひとり原付で散歩することで、日の出の美しいポイントを見つけたり、食べられる木の実を頂いて来たりと、新たな発見がチームにもたらされることになった。

Keywords

Recommended Notes

2018.03.09 下道基行
松本人志が昔よくラジオ番組で「プラスマイナスゼロ論」というのを話していた。例えば、芸能人がすごく有名になるというプラスが起こるとその逆に街を普通に歩けなくなったり恋愛もできなかったりネットで誹謗中傷の対象になったり…と反対のベクトルが起こる……という、しかもそのプラスが大きければ大きいほど逆も大きい、という話だ。【移動する方法】を考える…
2018.03.09 下道基行
旅によって移動するのは人々だけではない、情報も行き来している。どんな時代でも情報を持つ者は強者である。今はビッグデータを得る者たち、かつては旅人たちがそれを持っていたのではないか。100年以上も前の時代に、様々な外の土地の情報をもたらすふらりと集落に立ち寄る旅人たちは重要な“運び屋”だっただろう。 場所から動かない情報と出会う為に人が移…
2018.03.09 下道基行
小笠原諸島へは基本的に船でしか行く事ができない。東京のビルが立ち並ぶ港から船に乗り父島へ向かう。到着するまでは24時間もかかる。このご時世、飛行機なら地球の裏側まで行けてしまう時間。 小笠原諸島に人々や物資を運ぶ船は「新おがさわら丸」。6日に1便。東京湾を出ると船内では、すぐに携帯電話が繋がらなくなる。船内の人々がスマホを手から放す。三…
2018.02.19 developers
2016年、旅の地は、東京・竹芝港から1000km、24時間の航海の先に位置する小笠原諸島。独自のクレオール的多様性、「Nodus(接点、結び目、もつれ、難曲)」を含んだ小笠原にて、ゲストのリサーチ・ディレクターを迎え、複数のリサーチャーによるそれぞれの視点と考察の違い、それらが接触・交換する時に生まれる化学反応を観察・記録することに取…