例えば誰か有名な科学者の偉大な発見か何かのドキュメンタリーを作る時に、その科学者が仲間か兄弟か妻か誰か近しい人に送った手紙の一節を引用するのはよくあるパターンだろう。特別な手紙には世紀の発見につながるアイデアが生まれた瞬間や、論文には含まれ得なかったプロセスや意外な事情が刻まれている可能性があるし、ある程度の状況をふまえれば、鮮やかに意味深く書き手の肉声のようなものが再生され得るからだ。この科学者が後世の人間がそんな風にして手紙が読み解かれることを想定していたかどうかはわからないが、手紙という形で書き記し、それが誰かによって保存され、アーカイブされていたことで、何かが生まれ得る良い例かもしれない。こういう「使い方」がリサーチプロジェクトを記録する目的かどうかはわからないが、「記録する」と決断することから派生してくる意識、行動、そこから生まれる何かはある。そして、その意識がリサーチの形に影響することはあると思う。
旅するリサーチ・ラボラトリーの場合には「記録する」と同時に「編集する」「アウトプット」するという意識も常に働かせているので切り分けることは難しいが、この点の試行錯誤は特に2016年の成果物に詳しく記されているのでそちらをご参照頂ければありがたい。