みんなで旅や移動をしながら、同じ風景を見たり、同じ食べ物を食べたり、または先ほど食べた食事や出会った人々の事を思い出しながら、思いつくままに会話することは多い。すると、それぞれが見ている感じている部分や持っている情報が全然違うことに驚かせれると同時に、その時交わされる他愛もない会話の中から、化学反応が起こり、新しいアイデアや理解が生み出されることもある。
私たちはアイデアが形になった後の表現ではなく、化学反応が起こる瞬間を記録したり、それ自体を取り出し、なんとかシェアする方法を模索してきた。
旅するリサーチ・ラボラトリー初年度に旅の中での会話を出来る限りすべてを録音したり、動画で記録することに挑戦したがそれには限界があった。旅の最中はおろか旅後でも、それらを振り返って見たり聞いたりする事自体が不可能かつ苦痛である……。そこで旅中、毎日就寝前にひとつのタイムテーブル状の日記帳にその日それぞれが気がついたことを回し書き記すことを試してみた。これだとその日各メンバーが感じて心に残ったことが同じ場所に記述され、それらを回覧することにもなるのでお互いの発見などをある程度見ることはできるしそこから会話が生まれることもある。だが「編集」された状態とは程遠いため、このまま提示することで第三者と共有することが出来る程度には限界があった。
そこで、単純に話されているままの会話を録音するのではなく、その日あったことを話し合い、少し整理して、仮想リスナーを想いながら、ポッドキャストラジオ番組を作ることにした。当然、その日あったことが素材なのでコンテンツの面白さや膨らみにばらつきはあるため番組としてどこまで面白いのか……という点に難はあったかもしれない、ただ大まとめにした際には漏れていくだろう事柄なども記録できたことは良かった。そしてラジオ番組というフォーマットを採用したことで、ひとつの循環が生まれた。まずグループでその日気づいたことを集約し、収録で触れるトピックを選別する。次にディレクター2人が番組収録というテンションで対話的なトークをすることで旅中に生まれる会話に近い時間・空間が作られ、何かの気づきが新しいアイデアや理解に結びつく瞬間をリアルタイムに記録する(こともある)。さらにそれらの会話をなんとか編集しアウトプットすることで「フィールドノート同時筆記」と「表現」に近い新しい形を見いだせたことだった。
この経験は今でも活かされており、最近では、メンバー同士で会話している際に「お、今の話し録っておこうか」と、まるで会話を巻き戻すようにして会話を再生しながら録音したり、ブレスト的なミーティングがもりあがってきたタイミングで、レコーダーを回しポッドキャスト的な会話に変化させることで、誰かがより意識的にモデレートし、会話が編集されはじめる。これは外に出すようなものではないが、副産物として欠席しているメンバーのアップデートにはもってこい(?)だったりもする。機材はiPhoneで十分。外付けのマイクがあればなお良し。